RSウイルス感染が原因と思われた 急性膵炎の幼児2例

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RSウイルス感染が原因と思われた 急性膵炎の幼児2例 市立岸和田市民病院 小児科   後藤幹生,小田紘嗣,甲斐亜沙子,大村馨代,瀬戸嗣郎 2009/11/15 , 第41回 日本小児感染症学会

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◆Respiratory syncytial virus(以下、RSV)は、1歳未満の細気管支炎と肺炎の主な原因ウイルスで、乳幼児の呼吸器感染症の最も重要な病原体である。 ◆RSVは、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、パラインフルエンザウイルスとともに、パラミクソウイルス科に属している。 ◆「Nelson小児科学」等の成書にも、RSVによる腹部症状の記載はないが、演者は以前からRSV感染症の幼児に腹痛・嘔吐・下痢を訴える子が多い印象を持っていた。 ◆今回、RSVによる下気道炎で入院した2歳と4歳の2例で、腹痛・嘔吐・摂食障害が強く、血清膵アミラーゼとリパーゼの上昇を認めたので、報告する。 はじめに

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【症 例】 4歳4月、女児。  【主 訴】 発熱・咳・食事摂取困難。 【既往歴】 月齢3に尿路感染症で当院入院。右水尿管・尿管瘤・膀胱尿管逆流症を認め、2歳時に府立母子センターで手術。 1歳から気管支喘息で、1回当院入院あり。オノンを約2年間内服。3歳より無治療で喘息発作を認めていなかった。 RSV感染症の既往なし。ムンプスは3歳6月に兄から罹患。 【現病歴】 2008年11月15日より咳が始まり、16日(第1病日とす)より38~39℃の発熱が続いていた。16日より近医でクラリスロマイシン処方されるも改善せず、腹痛・嘔吐もあり食事が摂れないため、19日(第4病日)当科受診。全身状態不良のため入院。 【身体所見】 体重17kg (+0.5SD)、体温37.8℃、心拍数140/分、 SpO2 95%(大気)。 肺野;右>左で粗いラ音聴取。喘鳴なし。多呼吸あり。 腹部;平坦、軟、腸雑音やや亢進、圧痛はっきりしない。 症例1

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入院時検査所見   【血算】 WBC 3,810 /μL Band 2 % Seg 58 Lymp 28 Mono 12 Eosi 0 RBC 507x104 /μL Hb 14.1 g/dL Plt 25.0x104 /μL 【生化学】 GOT 87 U/L GPT 90 LDH 303 ALP 472 TP 7.9 g/dL TBil 0.6 mg/dL BUN 17 Cre 0.36 UA 12.0 Na 140 mEq/L K 4.6 Cl 101 Ca 10.4 mg/dL Glu 73 Amy 125 U/L(33-120) P-Amy 109 (14-41)   【血清】 CRP  4.7 mg/dL IgG 1043 IgA 190 IgM 184 フェリチン 309 ng/mL   【微生物】 鼻汁RSV抗原 + 鼻汁インフルエンザ抗原 ー 鼻咽頭培養 PISP 2+ 血液培養 生えず 尿培養   生えず   【胸部XP】  右>左で肺門部の  気管支陰影の増強   【検尿】 比重 1.032 ケトン体 (3+) 他はWNL

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入院後の経過 ◆治療;補液、ミラクリッド2.5万U×2/日、ユナシンS、 ソルメドロール3mg/kg/日、DSCG+β2吸入。酸素使用せず。クラリスロマイシンは中止。食事は低脂肪食とした。 ◆入院翌日に解熱し、しだいに食欲回復。腹痛・嘔吐消失。 ◆第7病日(入院4日目)、腹部エコー異常なく、退院。 ◆第10病日ごろ、過食後の腹痛と1度嘔吐あり。  第11病日の採血でGPT 102 U/Lと再上昇を認めたので、 一度にたくさん食べない、脂っこいものは控えること指導。 ◆第19病日に、膵アミラーゼ・リパーゼ値は正常に復した。 ◆経過中、耳下腺腫脹などムンプスの症状は、認めなかった。

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Day 経過表 3 5 7 9 11 13 15 17 1 19

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【症 例】 2歳11月、男児。  【主 訴】 発熱・咳・食事摂取困難。 【既往歴】 0歳11月にウイルス性胃腸炎、1歳10月にクループ症候群で当院入院。RSV感染症とムンプスの明らかな既往なし。 【現病歴】 2008年11月25日より咳・鼻汁が始まり、26日(第1病日とす)より38~40℃の発熱が続いていた。26日に当科受診しホクナリンテープ処方。27日にも当科再診し、インフルエンザ迅速検査陰性、メジコン・ムコダイン処方。腹痛が強く、嘔吐も多く、下痢も認め、食事が摂れないため、28日(第3病日)当科再々診。全身状態不良のため入院。 【身体所見】 体重11.7kg (-1.2SD、2日前と較べて6%減少)、 体温39.4℃、心拍数150/分、SpO2 96%(大気)。 肺野;右>左で粗いラ音聴取。喘鳴なし。多呼吸あり。 腹部;平坦、軟、腸雑音やや亢進、圧痛はっきりしない。 症例2

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入院時検査所見   【血算】 WBC 11,420 /μL Band 2 % Seg 68 Lymp 27 Mono 2 Eosi 0 RBC 441x104 /μL Hb 11.6 g/dL Plt 25.0x104 /μL 【生化学】 GOT 38 U/L GPT 12 LDH 259 ALP 475 TP 7.1 g/dL TBil 0.7 mg/dL BUN 13 Cre 0.25 UA 5.5 Na 135 mEq/L K 4.4 Cl 98 Ca 10.1 mg/dL Glu 68 Amy 153 U/L(33-120) P-Amy 107 (14-41) リパーゼ175 (11-53)   【血清】 CRP  2.9 mg/dL IgG  958 IgA 73 IgM 122 フェリチン 54 ng/mL   【微生物】 鼻汁RSV抗原 + 便ウイルス ロタ -,アデノ - 鼻咽頭培養 モラクセラ 1+ 便培養   大腸菌2+   【胸部XP】  右>左で肺門部の  気管支陰影の増強   【腹部エコー】  膵臓に異常所見なし    【検尿】  比重  1.031  ケトン体 (3+)  他はWNL

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入院後の経過 ◆治療;補液、ミラクリッド5万U×2/日、ユナシンS、 ソルメドロール3mg/kg/日、DSCG+β2吸入。 入院日の夜よりSpO2<90%のため酸素投与開始。 ◆入院翌日に解熱するも、全身倦怠と食事摂取不良、腹痛・嘔気は、第6病日(入院4日目)まで続いた。 ◆第9病日(入院7日目)に、酸素投与は終了できたが、 再発熱し、左下葉に細菌性肺炎を認め、セフォタキシム投与。このとき血清アミラーゼ値が1000台まで再上昇したので、ミラクリッドを再開した。耳下腺等の腫脹認めず。 ◆第11病日以降、解熱し、全身状態・食事摂取良好となり、腹部エコーに異常を認めないため、第14病日退院。 ◆退院後も、第20病日頃まではたくさん食べると腹痛や嘔吐を認めた。第22病日に膵アミラーゼは正常化した。

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Day 経過表 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21

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1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。 2.血中または尿中に膵酵素の上昇がある。 3.エコー、CTあるいはMRIで膵に急性膵炎を示す所見がある。 上記3項目中、2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。 注;膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測定することが望ましい。 (2006年改定、厚労省難治性膵疾患に関する調査研究班) 急性膵炎の臨床診断基準

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・薬物(9~11%) アルコール アセトアミノフェン過量 シメチジン ステロイド エリスロマイシン フロセミド バルプロ酸 etc ・遺伝性 ・外傷性(9~10%) ・閉塞性(47~56%) ・不明(10~21%) 小児の急性膵炎の病因(Nelson 17版より) ・感染(4~12%) コクサッキーBウイルス EBウイルス A型肝炎、B型肝炎 インフルエンザA型、B型 ムンプス 麻疹 風疹 マイコプラズマ etc ・全身性疾患(2~9%) SLE等膠原病 糖尿病 溶血性尿毒症症候群 川崎病 etc 《頻度(%)は、Tomomasa (1994) と 清水 (2009) より引用》

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◆症例1 ・ムンプス(第6病日、EIA法);IgG 32.1(+), IgM 1.1(+-) ・EBウイルス(第6病日、EIA法); VCA IgG 8.2(+), VCA IgM 0.1(-), EBNA IgG 3.4(+) ・マイコプラズマ(第4・6病日、PA法);ともに40倍 ⇒これら3つの感染症は全て既感染であった。 ◆症例2 ・ムンプス(第14病日、EIA法);IgG 2.0(-), IgM 0.46(-) ・EBウイルス(第14病日、EIA法); VCA IgG 0.3(-), VCA IgM 0.1(-), EBNA IgG 0.3(-), ・マイコプラズマ(第3・14病日、PA法);ともに20倍 ⇒これら3つの感染症は全て未感染であった。 症例1と2の mumps, EBV, mycoplasma抗体検査

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◆当院で、06~08年に、RSV迅速検査陽性例252例中、 RSV陽性の前日から14日目以内に、アミラーゼもしくは 膵アミラーゼを測定していたのは、21例であった。 そのうちアミラーゼ>120 U/L、or 膵アミラーゼ>41 U/Lの高値であったのは、本報告2例のみであった(9.5%)。 ただし、この21例中2歳以上の児は7例で、本報告2例を除いた5例中に、もうひとり2歳男児でアミラーゼ116 U/L の例を認めた。 ◆【参考】麻疹膵炎の検討(今井ら,小児科臨床,1990) 麻疹50例中、6例(12%)でアミラーゼとリパーゼの上昇を認め、その平均年齢は8歳4月で、年長児に多かった。アミラーゼの正常化には3~4週間かかった。 RSV感染症例の血清アミラーゼ値

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まとめ ◆1.RSウイルス感染症による下気道炎で入院した2歳と4歳の2例で、腹痛・嘔吐・摂食障害が強く、血清膵アミラーゼとリパーゼの上昇を認めた、軽症膵炎例を報告した。 ◆2.膵酵素は、呼吸器症状・全身倦怠が強かった2歳男児例で3週間、軽症の4歳女児例で2週間、高値が続いた。 ◆3.「RSV × 膵炎」、「RSV × アミラーゼ」のキーワードで、医中誌やPubMedを検索したが、症例報告はなかった。 ◆4.RSVは、膵炎の原因ウイルスである麻疹やムンプスと同じパラミクソウイルス科に属しており、実は、ヒト、特に年長児に膵炎を起こす病原性を有している可能性がある。 ◆5.シナジスの投与でRSVの初感染年齢が2,3歳以上にシフトした児では、膵炎合併例が増加する懸念がある。

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なお、本演題の内容は、 『小児科臨床 Vol. 63, No.1, 2010』 に掲載予定です(現在校正中)。 ご閲覧ありがとうございました。 またどこかでお会いしましょう...。 後藤幹生

Summary: 2009年11月、第41回日本小児感染症学会(福井市) にて口述&デジタルポスター発表。

Tags: rsv pancreatitis

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